まだ自分の息子がADHDだと気付かない3歳児の頃の話です。
その頃の息子は天使の顔をした悪魔でした。
息子が3歳の頃に妹が生まれました。
それまでも息子は人一倍手のかかる子だったのですが、妹を連れて退院して来た日から性格が変わりました。
息子が一人っ子の頃は、お母さんが大好きで甘えん坊で、お絵かきとお砂場が大好きで、友達と仲良く遊べる、活発な良い子でした。
妹の出産前の1か月間は入退院を繰り返していたので、淋しい思いをさせてしまったのだと思います。お母さんが帰ってきたら、またいっぱい甘えられると思っていたことでしょう。
「自分だけのお母さん」がやっと帰って来たと思ったのに、自分以外の「初めて見る知らない子」をずっと抱っこしているのです。見たこともない、まだ遊び相手にならないような小さな赤ちゃんに、お母さんを取られたと感じたのかも知れません。
その日から息子は、反抗することで母親の注目を集めようとしたようです。まず1番始めにした行動が「部屋の隅にわざとウンチをする」ことでした。
私がさほど驚くこともなく、強く叱ることもなく、淡々と処理してしまったのが息子にとっては不満だったのだと思います。
一生懸命考えついた1番悪い行為に対して「お母さんの気を引くことが出来なかった」と考えた息子は、「もっとお母さんの気を引くためのもっと悪いこと」を実行し始めました。
スーパーマーケットの床に寝転がって「お菓子買って~」と泣きながら足をバタバタさせる作戦に出たこともあります。これは1度でもお菓子を買ってあげると何度も繰り返すだけなので、床でウソ泣きをしながら私をチラ見している息子を小脇にかかえて回収し、お店から出たら終了ですので数回で諦めたようです。
次に息子が考えたのが、生後1か月の妹で遊ぶことでした。ベビーベットに寝かせている妹の両足を持ってグルグル寝返りをさせて遊んでいました。これに対しては、危険だと思いかなりきつく叱りました。
この頃の私は2人目を生んだ直後で身体は絶望的に疲れていて、外に買い物に行くことも、友達と話すことも出来ないワンオペ育児に加えて、息子の妹へのやきもちや反抗などで育児に自信を無くし、産後うつになっていました。
娘をベビーカーに乗せて外出できるようになると、息子も外へ出られて少し落ち着いてきました。しかし、息子はとんでもないことを考えていたのです。
娘をベビーカーに乗せて、息子は歩かせて外出しようとしていた時です。玄関ドアの外にベビーカーを出して娘を乗せて、ドアのカギをかけるために後ろを向いた一瞬の隙に息子が妹の乗ったベビーカーを非常階段から「レディ・ゴー」と言って落としたのです。
少し大きくなってからこの時のことを息子に聞くと、アニメーションのようなイメージでベビーカーがガタンガタンと階段をすべり落ちて面白いだろうと思ったそうです。しかし、その眼にしっかりと悪意は観て取れました。
実際はマンションの階段が半分降りて踊り場があって、90度回転してまた半分降りる造りの階段でしたので、ベビーカーが階段の途中でくるっと前回りで空中一回転して踊り場にタイヤから着地したので娘は事なきを得ました。もしシートベルトをしていなかったら娘の体は空中で投げ出されて大怪我になっていたでしょう。
仮に息子が「妹にお母さんを取られたのが悔しくて、妹を亡くしてしまおう」と思っていたのだったら・・・と、想像するとゾッとしました。
夫と息子の育児について話し合い、愛情不足が原因かも知れないということになり、生き物を飼うことや自然に触れ合うこと等を積極的に体験させるようにしました。
幸い息子は生き物が大好きになり、少しマニアックな飼育少年に成長しました。
この頃を振り返ると、自分が産後うつにかかるくらい育児が嫌になったり、寝不足でイライラしていたため、息子に対して「お兄ちゃんなんだから公園に行くのは我慢しなさい」とか、「もうお兄ちゃんなんだからオムツが取れないのは恥ずかしいよ」とか、息子に対して妹を引き合いに出して傷つくようなことを言っていました。息子には申し訳ないことをしました。
お母さんは具合が悪いからと息子に話し、赤ちゃんのお世話を一緒にやってくれるようにお願いしたところ、妹の成長がだんだん面白くなったようです。妹も兄にとても良くなつき、幼稚園から兄が帰って来るとハイハイで玄関までお迎えに出るのが日課でした。
兄が一生懸命組み立てたレゴブロックが完成したとたんに妹が怪獣のように壊しまくっても、怒らないで我慢が出来るようになりました。
あの頃の息子は「愛着障害」と言う症状が出ていました。ADHDのような遺伝的な発達障害ではなく、親の愛情不足や育児放棄など育児環境によって引き起こされる障害です。
愛着障害は、どのお子さんでも起こり得る障害だと思います。大人になった時にアルコール依存症などの様々な依存症になるケースもあります。
もし私がベビーカーのシートベルトを締めていなかったら息子は心に重いしこりを残して成長していたことでしょう。
この時に愛情不足に気付くことが出来て本当に良かったです。